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浦和家庭裁判所 平成12年(少)316号 決定

少年 T・K子(昭和58.7.23生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、出生後間もなくして「○○乳児園」に預けられ、昭和62年4月(3歳時)に児童養護施設「○○寮」に入所し、それ以降同施設で養育されてきた者であるが、中学校2年生時ころから、万引き、喫煙、原付バイクの無免許運転、同施設職員への反抗等を重ねるなどの問題行動が顕著になり、平成11年4月に県立高等学校に進学してからも、同施設職員の注意を素直に聞き入れずに、無断外泊や家出を繰り返したり、不登校状態に陥ったりして、同年9月から休学し、同年12月に同校を退学するに至り、平成12年1月16日ころには又もや家出し、知り合った男性と行動を共にし、アパートやホテル等を泊まり歩き、不純異性交遊を繰り返したり、覚せい剤使用に及ぶなど、極めて不安定で不健全な生活を送っていた。

そのため、少年は、観護措置決定を経て、同年2月18日の審判期日(第1回)において、試験観察の中間決定を受け、その補導を社会福祉法人○△自立援助ホーム「○□寮」に委託されて、同日から同施設で生活するようになった。そして、少年は、同施設で生活するかたわら、ラーメン店や食品工場等で就労した時期もあったが、いずれも長続きさせることができず、この間しばしば無断外出・外泊を繰り返して、同施設で落ち着いた生活や安定した就労生活を送ることができず、無断外出・外泊中は、知り合った男性と不純異性交遊に及ぶなど、極めて不安定で不健全な徒遊生活を送っていたため、同年5月11日に再度観護措置決定が執られ、同月16日の審判期日(第2回)において、同施設の規則を守って同施設職員の指示・指導に従い、無断外泊等をしないように強く指示されて、上記試験観察決定が継続されることとなった。

しかし、少年は、その後、一時期は食品工場に就労して安定した生活を送るかに見えたが、相変わらず無断外出・外泊を繰り返し、ついには同年7月8日に無断外泊したまま上記施設に帰寮せず、知り令った男性(17歳)と行動を共にして、諸処を転々として泊まり歩き、その間、不純異性交遊を繰り返し、挙げ句の果てに同男性との間の子を妊娠するに至ったり、同男性と共に恐喝、原動機付自転車の窃盗、傷害の各非行に及んだり、さらには、知り合った他の男性から誘われるままにシンナー吸引や覚せい剤使用の各非行に及ぶなどし、極めて不安定で不健全な生活を送っていたものであって、少年が保護のため緊急を要する状態にあって、その福祉上必要であるとして発付された緊急同行状が執行されて、同年9月7日に三度観護措置決定が執られるに至ったものである。

以上、要するに、少年は、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、正当の理由がなく家庭に寄り付かず、かつ、自己の徳性を害する行為をする性癖があり、その性格及び環境に照らし、将来窃盗、覚せい剤取締法違反等の罪を犯すおそれがあるものである。

(法令の適用)

少年法3条1項3号本文、同号イ、ロ、ニ

(処遇の理由)

少年は、実母が知的能力が低く経済的にも少年を養育することが困難であったことなどの事情から、生後間もなくして○○乳児園に預けられ、昭和62年4月(3歳時)に児童養護施設「○○寮」に入所し、それ以降、同年5月ころから実母が所在不明となり、実母等肉親との接触が全くないままに、平成12年2月に社会福祉法人○△自立援助ホーム「○□寮」に補導委託されるまでの間、上記「○○寮」で成育してきた者である。

このような成育環境等を背景として、少年は、寂しがりで甘えたい気持ちが強い反面、不遇感や孤独感が強く、素直に自分の気持ちを表現することができにくく、自己本位な考えで行動し、規制されたりすると反抗したり拗ねた態度を執り、抑制力も乏しいといった性格傾向を強めて成長した。

そのため、少年は、小学校高学年時にテレクラ遊びで補導されるなどの問題行動があったほか、前記(非行事実)欄に記載したように、中学校2年生時ころから、万引き、喫煙、原付バイクの無免許運転、施設職員への反抗等を重ねるなどの問題行動が顕著となり、平成11年4月に県立高等学校に進学してからも、施設職員の注意を素直に聞き入れずに、無断外泊や家出を繰り返したり、不登校状態に陥ったりして、同年9月から休学し、同年12月に同校を退学するに至り、平成12年1月16日ころには又もや家出し、知り合った男性と行動を共にし、アパートやホテル等を泊まり歩き、不純異性交遊を繰り返したり、覚せい剤使用に及ぶなど、極めて不安定で不健全な生活を送っていたため、埼玉県△△警察署にぐ犯保護事件(平成12年(少)第316号)で補導されて、同月28日に観護措置決定が執られた。

当裁判所は、上記保護事件について、同年2月18日に審判期日(第1回)を開き審理した。その際、少年を少年院に送致するのが相当ではないかとも考えたが、少年にはそれまでに裁判所への事件係属歴がなく、その犯罪的な非行性が未だ著しく進んだ状態にはなかったこと、少年の意向等の諸般の事情を考慮して、社会内での処遇によって少年の自力更生を図ることができるか否かを見極めるため、当分の間その行動を観察することが相当であると判断して、その補導を東京都△△区△○×丁目××番××号所在の社会福祉法人○△自立援助ホーム「○□寮」A方に身柄付き委託して実施する試験観察の中間決定をした。

少年は、同日から上記「○□寮」で生活し、自力更生のための一環としてラーメン店や食品工場等で就労した時期もあったが、前記(非行事実)欄に記載したように、その間しばしば無断外出・外泊を繰り返し、上記「○□寮」で落ち着いた生活や安定した就労生活を送ることができず、無断外出・外泊中は、知り合った男性と不純異性交遊に及ぶなど、極めて不安定で不健全な徒遊生活を送っていたため、当裁判所は、同年5月11日に観護措置決定を執り、同月16日に審判期日(第2回)を開き、少年に対し上記「○□寮」の規則を守って職員の指示・指導に従い、無断外泊等をしないように強く指示して、上記試験観察決定を継続することとした。

しかし、少年は、その後、一時期は食品工場に就労して安定した生活を送るかに見えたが、相変わらず無断外出・外泊を繰り返し、ついには同年7月8日に無断外泊したまま上記「○□寮」に帰寮せず、知り合った男性(17歳)と行動を共にして、諸処を転々として泊まり歩き、その間、不純異性交遊を繰り返し、挙げ句の果てに同男性との間の子を妊娠するに至ったり、同男性と共に恐喝、原動機付自転車の窃盗、傷害の各非行に及んだり、さらには、知り合った他の男性から誘われるままにシンナー吸引や覚せい剤使用の各非行に及ぶなどし、極めて不安定で不健全な生活を送っていた。そのため、当裁判所は、このまま事態を放置することができず、家庭裁判所調査官から上記ぐ犯状況の報告を受けて、緊急同行状を発付するとともに、これを立件(平成12年(少)第3318号ぐ犯保護事件)し、同年9月7日に緊急同行状の執行を受けて観護措置決定を執ったものである。

本件非行は、前記のような性格傾向や成育環境の下にあって、前記「○○寮」や「○□寮」に入寮していた少年が、施設職員の指導に従わずに、無断外出・外泊等を繰り返す中で不純異性交遊を重ね、さらには覚せい剤使用に及ぶなどし、平成12年7月8日からは、長期間にわたって上記「○□寮」に帰寮せずに、17歳の男性と共に諸処を転々とし、挙げ句の果てには妊娠するに至るなど、極めて不安定で不健全な生活を送っていたという事案であって、少年が、将来の見通しを持たないままに刹那的な生活を送るなどの問題行動に走っていること、しかも自己の問題行動や非行行動に対する問題意識が乏しいこと、今後も徒遊生活を送る中で多様な問題行動や非行行動を起こすことが懸念されることなどを考慮すると、少年が本件非行をそれなりに反省していることなどを斟酌しても、その要保護性は相当に高く、これを軽視することは到底できない。

少年は、集団検査新田中3B式知能検査でIQ=55未満、個別検査WAIS-R知能検査で動作性IQ=58とされ、「面接時の印象や文章等からは劣域程度の能力はあることがうかがえる。しかし、気分のむらが取り組み態度に強く反映され、しかも、叱責されると引っ込みがつかないままいつまでも反抗的で拗ねた態度を取り続けたりするため、持てる能力さえも十分発揮されにくい。」などとされているほか、その性格等として、「基本的には甘えたい気持ちが強いが、不遇感や自信のなさとを抱えており、情緒不安定である。すなわち、自分の好きなことをしている時や思いどおりになっている時は機嫌が良く、非常に明るい。しかし、自分のことを批判されたり、規制されたりすると、不遇感や自信のなさが急速に吹き出してきていら立ち、不機嫌になる。自分でもこんな態度を取っては嫌われると気にしているが、反抗的で固い態度を取り続けてしまい、自分の気持ちを素直に表現できない。そして、そうしたかわいがられない自分が嫌だとの気持ちから逃れようと自傷等に走りやすい。嫌なことが忘れられる飲酒や薬物などにも惹かれやすい。」「考え方も自己本位で、しかも、容量が小さい。そのため、何か気になっている時はそればかり気を取られ、それ以外のことをやらせようとしたりすると自分の気持ちを分かってくれないとの不満を持ちやすい。しかも、そうした不満や不安を喉元まで出掛かっていても言えず、反抗と拗ねた態度を取ることでしか表現できない。また、謝罪も言えない。したがって、対人関係も本人はさ程と思わないまままわりに迷惑を掛け、まわりが疲れて距離を置くという結果を招きやすく、孤独感が癒されにくい。」などとされている。このような少年の性格・行動傾向等が、少年の生活態度や非行行動の背景に繋がっているものと考えられ、その矯正・改善が急務であると判断される。

少年の家庭は、実母と2人家族であるところ、実母は、前記のように、昭和62年5月ころから所在不明の状態にあって、現在でも依然としてその所在が判明していない上、その他に少年が身を寄せるべき親類縁者も見当たらないこと、また、少年に対しては、前記のように、前記「○□寮」に補導を委託して試験観察を実施してきたが、少年はこの機会を活かすことができずに成績不良に終わっているのであって、少年は、社会内処遇では、これまでと同じように保護環境から逸脱して適応的な社会生活を送ることができず、逸脱を繰り返しては素行不良者等との交遊に耽るなど乱れた生活を続けて非行行動に至るおそれが極めて強く、現段階では、社会内処遇によって少年の自力更生を図ることは極めて困難であることが判明したこと、加えて、少年の健全な育成を図るためには、この際、少年に対し自分自身の問題点ときちんと対峙させて内省を深めさせて、社会の中で健全な形で自立していけるだけの力を育ませることが最も必要なことであること、少年の抱えている上記性格・行動傾向等を矯正・改善するためには厳しい規制の枠組みの中で専門家による指導が必要であることなどを考慮して検討すると、少年に対しては、自律的な改善に期待する社会内での処遇はもはや限界状態にあるものと言わざるを得ない。

以上の諸事情を総合して検討すると、少年が本件非行をそれなりに反省していること、少年にはこれまでに家庭裁判所への事件係属歴がないことなどを考慮しても、少年を社会内での処遇によって更生を図ることは極めて困難であって相当ではなく、少年に対しては、この際、少年院に収容して、系統的な矯正教育を施し、きちんと時間を掛けてきめ細かい指導を施して、自己の問題点を見つめさせ、問題行動や非行行動に対する内省を深めさせ、基本的な生活習慣や、自分の行動を規制していけるだけの自律心や自制心を身に付けさせ、健全な生活態度や就労意欲を培わせて、社会の中で健全な形で自立していけるだけの力を育ませるなどして、その方向付けを図ることが、最もその福祉に資すものであり、また、非行の再発防止の要請にも合致するものと言うべきである。

なお、本少年については、現在少年が妊娠中であり、医療措置として中絶手術を施す(少年もこれを希望している。)必要があるため、先ずは少年を医療少年院に送致することとし、医療措置終了後は、年齢その他諸般の事情を考慮して、少年を中等少年院に移送するのが相当であり、また、前記のように、現在、少年の保護者である実母の所在が判明しない状態にあり、その他に少年が身を寄せるべき親類縁者も見当たらない状況にあるので、出院時に備えて早期から、東京保護観察所や、少年の出院時の身元引受を了承している前記「○□寮」等と提携して、少年の出院後の帰住先等の保護環境に関して調整を図ることが必要であると判断するので、別途処遇勧告書に記載したとおり処遇勧告をしたものである。併せて、少年の少年院出院後の社会内処遇を円滑に行うため、東京保護観察所長に対し、別途「少年の環境調整に関する措置について」と題する書面に記載したとおり、少年の保護環境についてその調整措置を執るよう要請した次第である。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木秀夫)

〔参考1〕平成12年(少)第316号ぐ犯保護事件の送致事実

審判に付すべき事由

少年は、児童養護施設「○○寮」に入所し現在に至っているものであるが、義務教育を修了後高等学校に進学するも、在学中から家出や怠学等を繰り返し施設職員の監督を無視し、平成11年6月15日より「遊び目的」で家出を繰り返し、施設職員に発見され何度となく施設に連れ戻されているにもかかわらず、反省する事なく家出をし素行が修まらず、本年1月16日に再度家出し、知り合った男と行動を共にし現在までホテルや友人宅等を泊まり歩き、不純異性交遊を繰り返し覚せい剤まで使用していた状況であり、このまま放置すれば、その性格、環境などに照し、将来覚せい剤の使用、売春等の罪を犯す恐れが強いものである。

〔参考2〕平成12年(少)第3318号ぐ犯保護事件の報告書記載の審判に付すべき事由

審判に付すべき事由の要旨

少年は、平成12年(少)第316号ぐ犯保護事件について、平成12年2月18日の審判期日(第1回)において、試験観察の中間決定を受け、その補導を社会福祉法人○△「○□寮」に委託され、同日から同施設で生活するようになった者であるが、ラーメン店や食品工場等で就労した時期もあったが、この間しばしば無断外出・外泊を繰り返し、上記施設で落ち着いた生活を送ったり、安定した就労生活を送ることができず、無断外出・外泊中は、知り合った男性と不純異性交遊に及ぶなど、極めて不安定で不健全な徒遊生活を送っていた。そのため、当裁判所は、同年5月11日に観護措置を執り、同月16日の審判期日(第2回)において、上記施設の規則を守って職員の指示・指導に従い、無断外泊等をしないように強く指示して、上記試験観察決定を継続することとした。しかし、少年は、その後、一時期は食品工場に就労して安定した生活を送るかに見えたが、相変わらず無断外出・外泊を繰り返し、ついには同年7月8日に無断外泊したまま帰寮せず、その間、知り合った男性と行動をともにし、アパートやホテル等を泊まり歩き、不純異性交遊を繰り返すなどし、極めて不安定で不健全な生活を送っていたものである。したがって、少年は保護者の正当な監督に服しない性癖があり、正当の理由がなく家庭に寄り付かず、かつ、自己の徳性を害する行為をする性癖があることから、このまま少年を放置すれば、その性格、環境に照らして、将来、窃盗等の罪を犯すおそれがあると認められる。

〔参考3〕処遇勧告書〈省略〉

(別紙)

本少年については、現在、保護者である実母の所在が判明しない状態にあり、その他に少年が身を寄せるべき親類縁者も見当たらない状況にあるので、出院時に備えて早期から、東京保護観察所や、少年の出院時の身元引受を了承している東京都△△区△○×丁目××番××号社会福祉法人○△自立援助ホーム「○□寮」等と提携して、少年の出院後の帰住先等の保護環境に関して調整を図ることが必要であると判断するので、この旨処遇勧告をする。

以上

〔参考4〕環境調整命令書

平成12年9月20日

東京保護観察所長殿

浦和家庭裁判所

裁判官 鈴木秀夫

少年の環境調整に関する措置について

少年 T・K子

年齢 17歳(昭和58年7月23日生)

職業 無職

本籍 栃木県那須郡○○町大字○△×××番地

住居 不定

(無断外出前の住居 東京都△△区△○×丁目××

番××号 社会福祉法人○△自立

援助ホーム「○□寮」内)

当裁判所は、平成12年9月20日、上記少年について、医療少年院に送致する旨の決定をしましたが、現在、少年の保護者である実母の所在が判明しない状態にあり、その他に少年が身を寄せるべき親類縁者も見当たらない状況にありますので、少年の少年院出院後の社会内処遇を円滑に行うため、環境調整の必要があると考えます。そこで、少年法24条2項、少年審判規則39条により、下記の措置を執られますよう要請します。

なお、環境についての調査の結果等に関しては、当庁家庭裁判所調査官□□作成の少年調査票、同□△作成の平成12年9月18日付け意見書、浦和少年鑑別所長作成の鑑別結果通知書2通、決定書の各写しを参照して下さい。

少年の少年院出院時に備えて早期から、収容先の少年院や、少年の出院時の身元引受を了承している東京都△△区△○×丁目××番××号社会福祉法人○△自立援助ホーム「○□寮」等と提携して、少年の出院後の帰住先等の保護環境について調整を図ること。

以上

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